小事争論 こじ

アジア服・南国よろず屋ままかのボス。まだときどきちゃぶ台をひっくり返したりするけどだいぶ穏かになりました。

琥珀の日々

 

日々私のタイムラインを華やかに彩っていた、耳なし猫のアンバー。

 

f:id:mamakaboss:20201110131806j:plain

エリザベスが取れた日


 

f:id:mamakaboss:20201110135250j:plain

保護された日、病院で。

 

忘れもしない10月15日に、我が家の庭を泣きながら横切っていった彼女。両耳は血だらけで切り口も生々しく、よく見ると拘束された跡や、後頭部に負傷跡のハゲもあります。急いで病院へ連れて行き耳のかんばしくない部分を切除し、ノミダニの駆除をしました。その時に歯の欠損も見つかっています。受付で「一時的なものでいいから適当に名前を」と言われて、娘がその毛色からアンバーと名付けました。検索して2秒くらいで出てきた名前なのにあの子にぴったりです。毛色もさることながら、その瞳は本当にジェラシックパークに出てくるあの蚊を閉じ込めた蜜の色、琥珀そのものでしたから。

 

 

f:id:mamakaboss:20201110135334j:plain

ソムちゃんのお下がり、お花のドーナツがとびきり似合うよ

 

しばらく我が家の一員となった琥珀姫の最終目的地は、永遠の安息です。

まぁとにかく可愛いし、うちで飼っちゃおうかなって何度も思いました。でも先住猫たちの我慢が日々垣間見られて、なんとも申し訳なく落ち着かなく(´;ω;`)ウッ…。まぁ一緒にいると腹が決まれば、そのうち慣れていっただろうとは思うけど慣れるまではなかなか大変です。多頭飼いはどの子にもストレスですからねぇ。あっちこっちでシャーシャーギャーギャー諍いの声がします。そんな大人猫たちの顔色が冴えない中、アンバーはどんどん元気いっぱい。ソムちゃんにくっついて回ってウザがられていました。

 
 

 

f:id:mamakaboss:20201110145956j:plain

めっちゃ食べるしめっちゃ強気



 

  

そんなアンバーですがもう我が家にはいません。

一昨日、お家に帰っていきました。

「お家に帰る」つまり、なんとアンバーには飼い主さんがいたのです!

譲渡会から帰ってお風呂に入ってやれやれ座ろうかなーって頃に、会場から電話がかかってきました。その内容に私は思わず大きな声を上げましたよ。今までも、アンバーを欲しいと言ってくれる人はそこそこいましたが、譲渡の審査がけっこう厳しいのでお断りせざるを得ませんでした。「欲しい人がいる」くらいじゃもう私は小躍りしません。しかし耳を疑ったのは「アンバーちゃんの飼い主だという方から連絡がありました」なんですと?!私の間に入って下さってるのは、TNRや里親探しをされているかなさん(@kanamon55)アンバーの里親探しをツイートしたらすぐにフォローしてくれました。彼女が確認の為に相手から送ってもらった写真を見ると、そこには確かにアンバーが!知らない人に甘えて撫でてもらい、エリザベスを付けたアンバーがいます。もう鳥肌が止まりませんでした。

 

f:id:mamakaboss:20201110140749j:plain

飼い主さんからの画像

 

アンバー、あなたは誰?

アンバーの本名は、たろうと言います。

wwwwwwwwwwwwww

たろう?!と聞いた時、家族みんなで笑ってしまった。「たろうって日本の男児の名前です」って言ったら飼い主のFさんも笑っていました。いまごろ日本語ブームか。そして実家で飼ってた先代チョビのさらに先代の男猫が太郎と言う名だったので、チョビザセカンドと太郎ザセカンドが同居してる!って、私は誰にも通じないほくそ笑みをしてました。

 

アンバー(たろう)の飼い主さんはFさんという若い女性です。

 Fさんはある譲渡グループからお友達と共にアンバーを引き取りました。アンバーの余りに凄惨な虐待の跡を見て、みんなで育てていこうということになったようなのです。それは私達が想像するよりもっとひどい状態でした。男の人のサイズと思われるグローブの跡と、あちこちにワイヤーか輪ゴムのような拘束された跡もあったそうです。私も後頭部の傷跡は初日に気付いていましたが、その後腕をピックの様なもので刺されたらしき跡も発見しています。きっとその拘束をされた状態で様々な拷問を受けていたのでしょう。Fさんはアンバーを病院から自分の職場に引き上げて面倒見ていましたが、ここでアンバーは脱走してしまいます。なんと、逃げ出した拠点は我が家の真裏。同じタウンハウスの一室です。我が家は家番号1/10、Fさんの居場所は1/6。

 

なるほど、アンバーがこの辺りで見かけたことのない子なのも合点がいきます。昼はオフィスですが夜は誰もいない戸締りされた部屋なので、窓から子猫を見かけたこともありませんでした。傷は深く逃げて来たように見えるのに、体はそれほど汚れていないしノミも見られなくて、なにより目に力がありました。ごく至近距離からの脱走で体力が残っていたからでしょう。家にすんなり入ってきたのも間取りがほぼ同じだったからかも知れません。

 

そして思い出したのです。あの日、私がアンバーに「どうしたの?」と声を掛けた時、裏のお家のベランダから体を乗り出した若い女性が、それを見て微笑んでいました。え?あの傷に気付かないのかな?って、なぜ微笑みなのか違和感があったのでよく覚えています。答えが出たいま思えば、それが飼い主のFさんです。彼女は逃げ出したアンバーを2Fから見つけて「いたいた」と思って笑顔だったのかも知れません。探しに降りたけれど、結局見失ってしまったのか、その日アンバーは3回我が家の庭を訪れ、ついに夕方保護しました。しかし、結局その保護は早すぎて、見つけてもらえたかもしれないアンバーを閉じ込めてしまい、お家に帰れなくしてしまいました。首輪がなかったので、完全に異常者に虐待された野良の子だと思い込んでしまったのです。こんなに近くにいるのに、まるで違うユニバースくらい遠くに引き離してしまったのは、なんと私でした。

f:id:mamakaboss:20201110135347j:plain

人を求めて伸ばされるその手に、人がつけた傷

 

小さなアンバーの、大冒険が終わる

 

f:id:mamakaboss:20201110135420j:plain

運命の譲渡会

その週半ばまで参加を悩んで悩んだ譲渡会。いろんな猫の猫生が垣間見られて、いろんな事を考えてしまい、本当にパワー持っていかれる譲渡会www。とにかくとても疲れます。もう家で育てちゃえばいいじゃん!と思ったけれど、チョビが腰をぺっちゃんこにしてビクビク家に帰ってきては速攻ベッドの下に隠れて、夜中にそっとご飯を食べに出てくるような生活が続いていて、やっぱもうちょっとやれることはやろうかと思い至りまして(ソムちゃんは惰性で慣れていた)2日開催の所を1日だけでも行けよ!と自分を叱咤し騙しだまし参加したのでした。そして、そのたった1日の譲渡会が運命の日になりました。

 

会場はトンブリーのTang Hua Seng Thonburi。主催のしっかりした譲渡会でカメラマンの方がベストショットをFacebookにあげてくれます。とにかくね、タイ人の野良猫や野良犬への関心の高さがすごい。Fさんが毎日Facebookでアンバーを探していたのも納得です。リアルタイムでどんどん画像があげられていくし、保護猫を見に来た人もどんどん自身のFBに画像をアップしていきます。情報網もスピードもハンパない。いやタイ人がFB好きなのは知ってたけどまじほんと早いwww 2日間開催していると、1日目にこの情報を仕入れた人が本気モードで譲り受けに来るのです。1日目のさびれたショッピングモールのあの雰囲気ではとても決まるとは思えなかったのに、一転して翌日はかなさんのとこの12匹全員!お家が決まってしまいました。

そして、Fさんが見たアンバーはたった1日参加したこの日の画像だったのです。

 

f:id:mamakaboss:20201110143937j:plain

Facebookに紹介されているアンバー



うわーって。

もしあの日、譲渡会をさぼっていたら、すぐ真裏の家でアンバーはアンバーのまま暮らしていたわけですよ。おそらく一生我が家の姫さまとして。この運命が交わった一瞬の出来事で、アンバーはその翌日にはお家に帰ることが出来たのです。しかも徒歩でwww

 

 

アンバーが教えてくれたこと

 

f:id:mamakaboss:20201110144014j:plain

お昼寝

 

私がアンバーを保護する時、気になったのは「最後まで面倒みられるかわからないのに手を出していいのか」と言うことでした。自身の責任について、誰に相談することも出来ません。人間界で動物が生きていくそのケースは様々としても「出来る範囲」とか「常識的な」ことと言うのはあるもんだろう。そう思ってあるNPOに相談してみたんです。「残念ながら今猫ちゃんの受け入れはしていないんだけれど、その子を保護してください。ありがとう。ケガの経過がよければその子を元の群れへ返してもOKです。最後にもう一度ありがとう」そんな返事でした。保護した子をリリースしてよい、という選択肢が与えられたことで、私はすっと気が楽になり、大きな気持ちでアンバーを受け入れました。実際に、けがの具合を見ると歯の欠損もあり老後の身体が心配なので、誰かのお家で暮らした方がいいなと判断しましたが、助けたいと思った瞬間に「とにかく助けて。どうにかなるから!」と背中を押してもらえた事は、私に大きな勇気を与えてくれました。助けたい気持ちを当たり前に大事にするところ。どうにかなるさの精神はいい加減とはちょっと違う。0か100かで責任をひとりに背負い込ませないことで助かる命もあるってところが本当に素晴らしい。それはタイランドならではの、困ったらかなり周囲がどうにかしてくれるという魔法でもあるのです。「アンバーみたいに障害のある子は、みんなが協力してくれますからね」とかなさんが励ましてくれていましたが、あの譲渡会でどれだけの人が真剣にフランクに私達を助けようとしてくれたか、しみじみと伝わってきました。

 

譲渡会の猫たちをちょっと覗いてみようと思っただけの多くの人が、アンバーの前に立ち止まっては顔色を変えてせめてと募金をしてくれました。私の下手くそなタイ語の説明書きを読んでポロポロと涙を流してくれたおばちゃん。悔しいな!悔しいな!ってたくさん写真を撮り「必ず家族を見つけてあげる」と言ってくれたお兄ちゃん。何度も何度も何かを確かめるように来てくれたお母さん。こうして思い出しているだけで泣きそうです。ありがとうございました。

 

このトンブリーのショッピングモールで行われた譲渡会では、去勢手術、寄生虫のスポット薬、ワクチンなども無料で提供されました。すべての猫たちが安心して暮らせるようにと、お医者さんや企業が賛同してくれています。近所の猫ちゃんを捕獲して連れてくる人、多頭飼いで手術の負担も大きいご家庭などが長い列を作りました。場所を提供したショッピングモールだってすごい太っ腹です。どうしても手術になるから夕方には尿の匂いも出てくるのに、この世界にはそれより大事なことがあるんだよって信じることが出来ました。もちろんここだって日頃は犬猫禁止のビルです。でもその日はエントランスのドアマンも「どうぞ」と笑顔で、アンバーを正面玄関から通してくれました。優しい世界です。ほんとに。

 

きっと私はこれからも、アンバーを閉じ込めてしまった罪を償うでもなく、困った犬猫が居たら手を出してしまうと思います。でも、どんな出会いにもなんだか奇跡みたいなものが詰まっていて、私たちは流れるように行き交うけれど、結局どれも必然なのだから受けて立つしかないなと今は思えます。

 

そしてこんな大都会バンコクど真ん中にひとり、こつこつと野良猫を助けている人と出会うことが出来ました。彼女は今日も、人間式の生活のために街の隅へおいやられた猫たちの為に、屋根に上がったり暗がりで餌付けをしたりしています。猫には猫のネットワーク。猫助けにもプロがいる。彼女がフォロワーとして降臨したその瞬間と、お手伝いしますよと言ってくれたその瞬間、思わず椅子から立ち上がったこと2回。私はずっと忘れないと思います。

 

皆さんももし困った猫ちゃんを見つけたら、かなさん(@kanamon55)に相談して下さい。(私にとは言わない)

 

f:id:mamakaboss:20201110135400j:plain

バイバイ、アンバー

 

結果引き取りは叶わなかったけれど、声を掛けて下さった方、#今日のアンバーを楽しみにしてくださっていた方、日々応援して下さった皆様、本当にありがとうございました。誰かを一目ぼれで撃ちぬいてやろう!とアンバーばっかり必死でアップしてました。めっちゃアンバーだらけですみませんでした。いやぁでもね、犬でも猫でも、たったひとりでいい、名前を呼んで頭を撫でてくれる人がいれば、それだけで幸せになれるのですよ。でもそのたったひとりを探すのが本当に大変。よくわかりました。今もしあなたのおうちに、あなたを慕う小さいの(大きいのも)がいるならば、それは奇跡です。とても深いご縁です。めちゃくそ甘やかしてぐちゃぐちゃにかわいがってあげてください。もうあんまり叱らないでペロペロして(無責任)

 

アンバーはたろうに戻りました。

バイバイ、アンバー。

いっぱいくれたのはアンバーの方だったね。

ありがとうね。

 

 

f:id:mamakaboss:20201110152212j:plain

絶対幸せになる