初めての採卵
リラックスルームと呼ばれる大きな部屋には、ピンクの病院着を
着た女性達が、カーテンで仕切られたそれぞれベッドの上で
来るべきその時を待っている。
桃色の野戦病院か、はたまた女性用のカプセルホテルか?
これだけたくさんの女性が一気に採卵するだなんて、
改めてこの病院の大きさと合理主義と、
集まった女性達の人生悲喜こもごもを思う。
名前を呼ばれ、手術室へ。
暗い室内に、たくさんの看護師さんが動き回るのが見える。
扉側に足を広げるように用意された手術台に、スポットライトが当たっていた。ク、クラ~ッ
不覚にも入り口でよろめいてしまい、看護師さんに支えられる。
一歩、踏み段を上がり振り返り横になると、あれよ!と言う間に
手術着がたくし上げられあられもない姿に・・・・
アーメン!!である!!
鈍い痛み。
この病院は、世界で一番細く痛みのない針を使用していると言われている。
初めてなので比べようがないが、前夜痛みを想像してビビリまくっていた事が馬鹿馬鹿しい程だ。泣く程の痛みではない。
子宮やら卵巣の周辺で感じたことのある、あの意味深げな深く重く鈍い痛み。
あの生理痛の様な痛みがキューっと来たり抜けたり、これが5分ほど。
排卵誘発剤を使っていない今周期は、卵は1個しかないから
針を刺すのも一箇所のみ。だから痛みも少ないのだが、
まぁいい気分ではない。出来れば二度としたくない。
でも「上村さん、エッグ1個 確認!!」の声に心が浮き立つ。
ああ、良かった!卵があった!
卵胞から卵子が吸いだされる様子は、自分でも見る事ができる。
顔の横に小さなモニタが設置されているのだ。これがなんとも面白い。
自分のモニタに何も映らなくなったので顔を反対側へ向けると
テンプレートを映した大画面モニタがあった。
しばらくして映し出されたのは・・・拡大された私の卵っち!
おお、すでにかなりいとおしい!!
体にとっては大変な仕事だったのに、実にあっさりとした手術であり、
さっぱりしたような何もなかったような微妙な達成感。
確かに卵を採りだした、と言う切ない痛みを遠くで感じながら、
20分の休憩だけで家路につくことが出来た。