小事争論 こじ

アジア服・南国よろず屋ままかのボス。まだときどきちゃぶ台をひっくり返したりするけどだいぶ穏かになりました。

選ばれし子ども達 ヒカルとしゅうや(3)

期を同じくして、我が家の双子兄・凛之助も不登校していました。

 

人と言うのは勝手なもので、こうして正義の味方ヅラしていても「自分の子は別」「うちの子はそんなに酷くない」などという言葉が一瞬頭をかすめるのです。しかし、学校に行かないに「別」も「酷い」もないわけですよ。凛之助がうまく表現できない違和感を、私は折に触れしゅうややヒカルの口から聞き、息子に重ねていました。

 

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「学校に行かない」という選択。「学校に行けない」という苦しみ。

簡単に自分の状況を肯定できない彼らは、凛之助の気持ちを想像してはなんとも言えない気分でいたと思う。簡単に行くのやめろとも戻った方がいいとも違う。「なんで。どうしてこんなことになっちゃったんだろう」という一言に尽きる。すべての障害物を取り除いてやるのは違うと思うけど、異変と思われる事態に気付いた時、親は前に立ちはだからなくてはならない。kaorucoちゃんは、これを毎日やってる。私も襟を正して向き合わなくてはと思う。凛之助はクラス担任と合わなかった。ここに細かくは書かないけれど、親のひいき目を7割引きにしても、凛之助は悪くなかったと思っている。転校も視野に入れての話し合いへ向った。「クラスを替えて下さい。双子を同じクラスにして下さい」要求はひとつ。そりゃずいぶん甘いなと思われるかも知れません。しかし離れていた双子が突然世界を共有する事もまたひとつの苦悩を生むんですよ。彼はらつねに比べられる。しかし「先生をコントロールする」VS「双子の問題を我が家の問題として対応する」で、我が家は得意な方を選択しました。他人様をコントロールするなんて出来ないうえに、その状況自体がすでに幸せではないからです。

 

 

 

そろそろプチ留学も終わりに近づいて、おおよそのメンバーが帰ってしまった週末。とるなん家とkaoruco家とままか家でプール遊びをしました。遅れて私がプールサイドに行くと、なにやら揉めていて、しゅうやが大泣きしている。どうやらヒカルがしゅうやの思い通りにならないということか。一生懸命対応しているヒカルが気の毒だけど、一度泣きだすと止まらないしゅうや。大人達はちょいちょい合いの手を入れつつの距離を取ると言う体制。「プリン買ってきたよ」と時々言ってみたりして。

 

でもね、その大声で言ってる罵詈雑言をよく聞いて欲しいの。「せっかく最高の日だったのに、お前のせいでクッソー!」「最高だったんだよ。せっかく最高に楽しかったのに」「最後なのになんでだよ!クッソー」もう楽しくてしょうがなかった。淋しくってしょうがいって言ってるだけだよこれ。「これからだよ~、まだ時間あるよ。プリン食べようプリン」プリンプリン言いながらなんとかプールからしゅうやを上げて、部屋の前で絶叫したりしつつも部屋に入るとちょっとホッとしたのかしゅうやがプリンを食べた。ヒカルは笑顔でみんなを部屋に案内したけど、実は結構やられてて部屋にこもって寝てしまった。甘過ぎて苦いプリン。今もしゅうやとリンクする。

 

気を取り直して、みんなの大好きなピザを食べに行った。とるなん家はサトゥープラディットのカオマンガイを食べに行くってバイバイしたんだけど、後日談になりますがここで彼らカオマンガイじゃなくて空港に行くべきでした!w

 

響き合う声

凛之助がしゅうやの隣に座っていた。凛之助がたぶん学校の話をしていたんだろうね。凛之助は話が長くてまどろっこしいので、いつも大人は悪意なく話をフェイドアウトさせてしまう。その時も最初の方は覚えているけど、いつの間にか違う話になってて、だけど凛之助は話し続けていた。そこに聞き手がいたから。それはなんとしゅうやだ。しゅうやは凛之助のストーリーをどこまで把握してるか分からないけど「悪口」とか「嫌な奴」とかしゅうやコードに引っ掛かるワードに反応してずっと真剣に聞き耳を立てている。そのうち「それで、そいつどうしたの?」「それでお前なんて言ったんだよ」「ひでえな」「どうして?」と話しかけながら、自然に凛之助の肩を抱いた。ものすごい近くに顔を寄せてじっと見てる。凛之助もとくに驚くでもなく「て、言うかさ、そんなこと言えたらこんなんなってねえって」「そうだよな!」「とにかく最低」「さいっていだな」

なんてこと。盛り上がっているではないか。若いサラリーマンの酔っ払いみたいだ。

 

面白い。凛之助としゅうやの周波数。過去を知らないのは当然で、同じ風景を見てるのでもなく、感情の波立ちも違うのだけど、ただそれはハーモニーみたいに、違う音を出しながら心地よくお互いが響き合ってる。気持ちが良さそうなんだ。人は誰かに解かってもらいたいとか思い過ぎなのかもしれないな。こうやって心地良さの中でお互いがいい奴だなって思えたらそれでいいのかもしれない。

 

コンドの前でバイバイした時は、もう全然しゅうやはお別れも平気になってて、凛之助に「またな!」って言ってた。しゅうやの周りにはサポートしてくれる人がたくさんいて、きっと別れ際には「しゅうやくんまたね!」って優しい大人が言ってくれているんだろう。だけど「またな!」「じゃあな!」「うん!」って同じ年頃の友達ってやつに、それを言えるってなんだかとっても素敵じゃないか。

 

凛之助もしゅうやも傷ついた分、誰かの気持ちがわかる子だ。それをお役目とするならだいぶ厳しい人生だけど、こういう子って確かにいつも貧乏くじを引くもんなんだ。双子の凛之助と彪之助。同じ遺伝子の一卵性双生児。だけど、いつも誰かに疎まれたりいじめられたりするのは凛之助。そういうと、凛之助にも悪い所があるんじゃないかって、昭和の親(我々)もちらっと思うんだけど、実はそうじゃないなって思う。例えばイライラをぶつけやすいのだとしたら、やはりそれはいい所と悪い所の表裏一体で、彼はきっと受け入れる顔をしているのだと思う。優しくておっとりしているんだ。そのいい所をキリッとしろ甘くみられるなと言うのはなんだかなと思う。でも傷ついて欲しくないから、ビクビクするなとは言う。人の目ばかりが気になると、小さい事に気を取られて大事なことを見失いがちだから。対してしゅうやには人の目ってものがあまりない。自分の世界で暮らしていて、しゅうやがアクセスして来ないとこっちからは入っていけない。そのしゅうやが凛之助の言葉に興味を持って凛之助が満足するまで話を聞いてくれた。そして凛之助の不器用さが、しゅうやのシグナルを発信させた。きっと今後もふたりともいい選ばれ方しないんだろうけど、ただその度に、人って捨てたもんじゃないなって思える結果になるように、関わりの中で少しずつ自分のことを理解していって欲しい。やがては世界に柔らかい親和感を持ってるようになってほしいと思う。まずしゅうやにとっては、同世代に気の置けない友達がいるっていう経験が世界に通じる鍵になるはずだ。そんな経験がこれからも出来ますように。新しく開く扉の先に恐怖しかなかった彼が、期待を持って扉の前に立てるようになりますように。

 

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プチ留学には、たくさんの子ども達が来ました。どの子もどの子も特別で大事な宝物です。そのひとりずつに物語がありました。kaorucoちゃんのお許しを頂いて、ヒカルとしゅうやのことを書いてみましたが、なんというか、彼らの変化には目を見張るものがありました。タイと言う土地のトリートメント力、環境を変えるだけで生活や価値観の変わる様、居心地の良さからいい気分が生まれること。目の前で起きる数々のミラクル。ここには書ききれなかったしゅうやの神の啓示のような言葉。そんなすごいもんをたくさん見ました。2月から8月までの半年を費やした準備期間、みんなで問題を乗り越えて、なんとかここまでこれてよかったな~と心底思っています。

 

たかだか、ひと月で解かる事なんかあるもんか。一週間、一年、どの期間をそこにはめてもやはり同じことを言われるかも知れません。だけど、それを見つめている目はあなたのものではなく、子どもの目です。一瞬でなにかをつかまえる子もいるでしょう。その子がどれだけのお土産を持って帰れるかわかりませんが、とにかく覚えていてほしいのです。少し淋しくて怖かったけれど、なんだか優しい空間だったこと。そこはただそこにいることを否定されず、役に立たない事を責められない。君は君のいるいまその場所で、この空間を作る事も出来るかもしれないよ。だってそれを知ってるから。

それでもダメならまた来ればいい。

君の生きられる場所は世界に、君の中に、無限にあるんだから。

 

 

 

 

 ヒカルとしゅうやーーー終わり