魔法のことば ヒカルとしゅうや(2)
プチ留学の総括も終わらないうちに、学校の危機がやってくると言う・・・神が私に与えた試練だったとしたら巻きこんでごめんね学校←うぬぼれやさん
私、あなたのなんなのよ。
あまりにも関係者っぽいんで何さまなのよと私自身思います。すみません。私的には「わたしはあなたのなんなの?!」って学校に対して思わずにはいられない今日この頃ですが、わたしが分かる範囲で事情を説明すると、どうやらわたしとSISのコーディネイトしているT.ラフィーザが友達ってことですね。わたしったらSISの父兄ですらない。この人は以前、うちの娘が通うインターで科学の教師でした。そして娘ちゃんとうちの娘がクラスメイトですごく仲良しだったのですよ。で去年、彼女は新しい学校を作るプロジェクトに参画することになり、わたしはその途方もない夢を遠くから応援しているよという感じだったのですが・・・いつの間にかずるずるとこの様な関係になってしまいました。
バンコクの長い長い夏休み、デジタルデバイスに溺れる息子達を通学させてもらったり(イスラムの学校とタイの学校は夏休み時期が違います)今は学校をやめてプー太郎の娘が、次の受験までの日々だらだら過ごすことなかれで通わせてもらってます。時間が短いから休み中に通っても不満にならないし、友達いるし、インドの先生の算数がめちゃくちゃ面白くて最高です。うちの場合タイ語を習得するというミッションがあるので現地バイリンガル校に通っていますが、なにかあったら最後はここに戻ればいいと思えるからこそ思い切ってチャレンジが出来ます。いつも笑って「好きにせよ」という彼女の、そういう場づくりにいつも助けらています。
ムスリムは、争いを好まない優しさとアンフェアを嫌うストイックさ、他はなんでもだいたいでオッケーな寛容さを持ち合わせていて、地味ですがすごくなんか落ち着くんです。バンコクの中でもけして多くないイスラム教系の学校で在タイの日本人からするとかなり変わった選択と思われると思いますが、おおらかな彼らだからこそプチ留学を引き受けられたのだと思います。あ~文句言おうと思ったのに誉めて着地w
許しの土地タイにおいて更に許される場所です。もうだらだらです。
ヒカルとしゅうや(2)
大家さんに荷物を受け取ってもらえず、荷物を抱えて立ち往生のスタートとなったkaoruco一家。とりあえず、荷物は私の家へ運びこむとしてタクシーに乗ったはいいが、運転手の様子がおかしいらしい。「お酒臭い」とメッセージが来て心配してると、ドライバーから電話が掛ってきた。何度道を説明しても通じた様子がなく長らくどっか行っちゃって、ぐるぐる周ってどうにか到着。命からがら車から転げ出て来たkaorucoちゃんと再会のハグをした。よくやった。遠かったね。ドライバーは悪い人じゃなさそうだけど、やはり酒臭かった。交渉600バーツで来たと言う。
「お母さん。メーターがあるのに金額言ってくるのは違法なんじゃないの?」ティーンエイジャーはしゃべらない、と言う私の定説を覆すヒカル。よくしゃべる。「うん違法だね。でもさ、タクシーはちょいちょい価格交渉してくるんだよ。渋滞だから定額の方がお得だよとか、並ばず乗れるよ、とか観光に連れて行くよとか言って。お客さんも選択肢として考える人がいるわけ。もちろん嫌なら断ればいいの。ルールよりも損得とか相互了解がだいじってことかな」と、かく言う私も酒臭いのに600取られたのはちょっと納得いかないわけだけど、ヒカルはそれでふうんともう言い返しては来なかった。
その日わたしは午前中に野暮用があってすぐに出掛けなくてはならなくて、しかし彼らを置いて行くわけにもいかないので、では観光がてらスクンビットまでご一緒して頂きましょう。しかしこの渋滞では間に合わない。バンコク初日にしてモトサイ体験です。
kaorucoちゃんとしゅうや、わたし、ヒカルと三台に分乗。2台を見送ってから出発し途中しゅうやを追い抜く。きっとかなり予想外だからだろうけど、抵抗することなくドライバーの兄ちゃんにしっかりつかまっているようだ。3kmほど走行すると、先着のヒカルが目的地で出迎えてくれた。なんともその顔は、タクシーを降りた時とうって変わって明るく輝いてる。「俺バイク乗るの生まれて初めてなんすよ。めっちゃ面白い。バイク乗る人の気持ちめっちゃわかる!すごい!」もう2歳も若けりゃ(現在13歳)ピョンピョン飛んでたんじゃないかくらいご機嫌。そこへしゅうやが到着。降り際になにやら話している。どうやら怖がったしゅうやが思わずしがみついた所がバイクの兄ちゃんのくすぐったいポイントだったらしく、ごめんなさいしていたのだが、同じ様にテンション上がったしゅうやのその様子とkaorucoちゃんのぺこぺこ頭を下げるのが可笑しかったのかかわいかったのか、いつもむっつりしてる兄ちゃんがうっかり相好を崩してしまったのを私は見逃さなかったw。モトサイは、どんな乗り物より素早くお客様を目的地へお届けするのが使命。数珠つなぎの車の間をすり抜け、歩道を逆走し、ビルの中を突っ切る。たかだか30バーツ程度の料金でそんな無茶するからお客さん共々死んじゃう事も多いんだけど、これぞまさにルールよりもニーズ。乗る人は絶えない。タイ人気質たっぷりの職業だと思う。
日頃、規則最優先で暮らす日本の子に、適当とか気分がいいとか、臨機応変で出来あがってる世の中を説明するって難しい。でもこの時ヒカルの体の中に、その心地よさが入った気がする。やっぱり体でわかるのが一番いい。
ヒカルは映画が大好きで、家に引きこもって1日に何本も映画を観ている。我が家もかなりの量の映画を観るので、何が好き?ってずいぶん盛り上がった。若干13歳の映画の趣味はかなり渋くてわたしの青春時代のマニアックなタイトルが出てきて笑ったりして。でも、なんだろう。昔ならきっと文学少年。本に溺れていたんだろうな。彼のここではないどこかへ行きたい気持ちが、映画を観ることをやめさせないんだろうと思う。なにしろ、様々な映画の芯がわかっているような事を言う13歳。うちではレオンを真剣に観ていました。朝昼が逆転しがちで、お日様にもあたらず、友達もおらず、それを箇条書きにすると物凄く何か言いたくなる。もちろん言ってもいいと思うけど。しかし実際に目の前に実物がいると、その有り様は意外にも健全だ。
彼にも言い分はあるさ。そう思える。そんな大人びた彼なのに、しゅうやが体調不良で学校を休むと言ったら「俺も」と休む。便乗と言えば聞こえはいいけど、ヒカルにとってしゅうやはそこに自分が要るべき理由になってしまっているようで気になった。ヒカルはしゅうやの支えだし、ヒカルはしゅうやを大事に思っているけど、ヒカルはしゅうやのオマケじゃないし保護者でもない。ヒカルは自分が「特別な子」だと知っている。「特別な存在」だと信じている。だけど、それは誰にも分からないことで、ことさら分かってもらおうなんて思っちゃいけない。傷つくだけだから。ちょっと上にはみ出した感じのその彼のスペシャルはことごとく否定されてきた。誰とでもしゃべれる社交性の中には、自分を大きく見せようとか馬鹿にされないようにしようとする意識がかいま見えて少しせつない。本当の彼の殻はまだまだ固く固く他を寄せ付けない気がした。学校でも賑やかにやっていて、まったく世を拗ねる様子もない。超楽しそうだよってモカも言ってた。だけど彼は拗ねています。
世をすねず、自分を信じて生きていくのが難しいなら、なにかひとつ特別な自分になるためのおまじないを用意しよう。ヒカルもし英語が喋れるようになったら、どうだい?英語を日本語字幕なしで俳優が放つセリフをさダイレクトに耳に入れられるようになったらよくないかい?英語はただのツールだよ。だけどわりとあちこちで使えるツールで、君を疎ましく思うやつらから遠く離れることが出来る。自分で自分を誉めてあげたらいいよ。お前はすごいぜスペシャルだぜって。なぜって自分で自分を救ったからさ。自分を大事にしない人から自分を救いだしてやったからさ。
今日は昨日よりまし。
すぐにやめないで7回は行ってみる、って約束があるから行ってる。
しゅうやが行くなら行ってやってもいい。
つまんない。でも今日は昨日よりまし。
そんな感じで、彼らはなんと誰よりも通学しました。
もともとが真面目なんだなぁと思わずにはいられないwww
kaorucoちゃんの日報から
ヒカルはいつも、パーカーと迷彩のパンツ、まぶかにかぶったキャップそしてイヤフォンをしている。電脳系お洒落男子のパターンだ。このくっそ暑いのに。お洒落で無理してるってわけじゃなくて、これは彼にとっての鎧。プロテクターだ。
それを、脱いで「お母さん、これ洗って」って言ったのだ。
彼はTシャツ1枚で風に吹かれていた。
固まるわたし。やだこれ、すごいことが起きてるじゃまいか!
その何日か後に、「あつこさん、またヒカルがパーカーを着て行きました」と連絡が。いいではないかいいではないか。3歩進んで2歩下がる。いいんですよ。
てか、いいことばっかりだよね。ほんとに。
つづく