小事争論 こじ

アジア服・南国よろず屋ままかのボス。まだときどきちゃぶ台をひっくり返したりするけどだいぶ穏かになりました。

ここではないどこかへ ヒカルとしゅうや(1)

 

 君を、ここではないどこかへ

 

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いま、学校に行けてない。なんとか行っているけどしんどい。友達がいない。家にいたくない。人生が退屈すぎる。なんだかとても不安だ。いろんな「君」に、いま目の前にあることが全てじゃないと知って欲しい。少し向きを変えたり位置をずらすだけで世界はがらっと変わる。意味が変わる価値が変わる。その様を自分の目で見て欲しかった。どこへ行っても100%居心地のいいとこなんてそんなにないと思うけど、せめて君を攻撃したり否定したりしない場所を自分で選べたら少しはましかなって思います。そしていつか君が大人になって、自由に自分の足で何処へでも行けるようになったら、是非そんな自分を祝福して欲しいのです。「よっしゃこれで自由になる。大丈夫どうにかなる。」って世界を信用出来るように。初めての場所で、たくさんビックリして、素敵な人にいっぱい会って欲しい。プチ留学は、そういう思いで出来ています。

言い出しっぺの私ですが、自分がやるべきとか、出来るのかとかは全然思ってなかったですよ。ひとりの子を呼び寄せたかった事からもう少し話を広げてみたらもう少しいけそう、もう少しいけそうで、気付けばこんなことに!ってのが正直なところです。でもずっと前から「生き難さは環境に大きく依存する」という確信はあったので、これはいい!っていう直感ひとつで楽しくやれました。

私自身は日本でうまくやっていたタイプです。たぶんこのまま日本に住んでても幸せだったと思います。しかし同じ家族の中で育って、同じ学校へ行った弟に世界は同じ様に微笑みません。彼の努力が足らないとか、彼の性格が悪いとか、そういう事もあるかも知れないけれど、私が彼を知る以上にそれを言える人はいないと思う。私の息子たちは双子で、ほとんど同じ条件で産まれてきているのにも関わらず、見えている世界、感じていることはそれぞれ。起きる問題もそれぞれ。誰一人同じ人生を送っている人はいないというのがよくわかります。均整を重んじる社会はいつも不平等で自由は拘束される。それを秩序と呼び掟の中で安堵する人々を歓迎します。自分の体や心よりシステムが重視される。人に迷惑を掛けたら死をもって償わなければならない←勢いwww。そこでうまくやれない「君」は、我慢して生きるのか、無理して死ぬのか、目をつぶって固まるか、どれもろくでもないんだよね。そして例えそんな世界が悪かったとしても、変わるのを待っていたらそのまま寿命が来ます。

すぐ出来ることは「自分を変える」腹が立つよね。簡単に出来たらすでにそうしているし。でもやっぱり自分を変えるしか生きる方法はなさそうです。対策として、環境を変えると言うのは、物事の優先順位が大きく変わり価値観ががらりと書き換えられます。周りが変わるだけで自分も変わる。どれだけ遠ざけても周囲の意識が自分に大きな影響を与えている事が分かります。居場所を変えるのはとてもシンプルで効果的です。人生はしょせん処世術。そのうち中身がついてくる。はず。

 

mamakaboss.hatenablog.com

 

ヒカルとしゅうや

ヒカルとしゅうやは4人兄妹の3番目と末っ子。ヒカルはよくしゃべる声の大きな13歳。目の動き滑舌の良さですぐに頭の良さがわかる。人との距離感に多少バランスの悪さは感じるものの、社会生活を営む上でのハンデは見当たらない。むしろ13歳とは思えない大人びたその存在が日本の同世代から疎まれてしまうかも知れないなと思う。しゅうやは目のくりっとしたかわい~い顔の11歳。中身は6歳と言われている自閉症スペクトラム(ASD)。

2人はいま、学校へ行っていません。

 

母のkaorucoちゃんが2人を伴って酒臭いタクシーから命からがら降りて来たのは8月2日。大家さんがチェックインタイムを間違えたうえに荷物も預かってもらえなくて、急遽我が家立ち寄りとなった。そして初めて生の彼らにお会いした。

 

何かの話のついでに、我が家の双子A凛之助の話になった。以前通っていたインターで日本人が集まると特有の意地悪が発生するというエピソード。それにヒカルとしゅうやはめっちゃ食いついてきて、過去の凛之助を庇うべくたわけ者を存分に非難してくれた。とりわけしゅうやはそのシーンでの出来事をイメージしながら分析し「誰が凛之助を叱ったの?」「ううん誰も叱らないよ」「そいつは叱られたの?誰が叱ったの?誰が誰を叱ったの?」叱られるべき人が誰で叱られたのかどうかすごくひっかかったようだ。「凛之助が大泣きして」と言ったらすぐに、フラッシュバックが起きてしまった。「クッソ~あいつ、バカにしやがって」以前自分が通っていたフリースクールでの出来事が蘇る。「あの野郎、脳みそ引きずり出してぼっこぼこにしてやる」「反逆者!」「あいっつのアカウントばらしてやる」「スマホ水没させる!バッキバキに破壊する!ぶっ殺す」すごいなこの子。中身6歳なんて言われてるけど、なんて素晴らしい語彙だろう。真剣に怒って大泣きしているその顔がまた涙でキラキラして物凄くかわいい。とか、思っている場合ではない。立ち会ったその他3人はあれこれ声を掛け落とし所を見つけてやろうとする。「そんな事、しゅうやは出来ないでしょう?殴ったりしないって自分で決めたでしょ」「人を傷つけたらまたそれで自分が傷つくでしょう?自分がつらくなるじゃない。だからしゅうやは」「どうして!どうせ大人は我慢して偉かったとか言うんだろー!うわーいやだー」ほんとだ。我慢して偉いなんて大人の誤魔化しだ。過ぎた事の言い訳だ。彼のまっすぐさに大人は冷や水をぶっかけられる。しゅうやは今、リアルな現場に立って相手と向き合ってる所なんだ。ぶっ殺さなくちゃ気が済まないに決まってるじゃないか。コップの水をひっくり返してやろう!とがっとコップを持つがそ~っと持ちあげてそ~っと傾けている間にうんうんと母が回収してしまう。本当に乱暴が出来ない人なんだよね。ヒカルが「あいつはゴミだ」「じゃあお前もやり返せよ」挑発しながら相手の悪口を言ってやってる。そして私に相手がどんなに酷い奴だったかを解説する。それをしゅうやはちゃんと聞いてて「あいつさぁ、あの時すっげえバカでさ」相手の失敗を思い出してフフッと笑いながら話しだした。ここで悲しみの扉が閉まった。40分くらいだったかな?

しゅうやの心の中には無限の引き出しがあって、時折何かに触発されるとそれを取りだし怒り悲しむ。感情はその時のまま、まるで今起きている事の様に痛い。しゅうやは優しく大人しい子で、誰かに何かされた時も即反応する事が出来ず家に帰ってから泣いているので、余計に不完全な感情を後からゆっくり取り出して寄り添うことが必要なんだろう。もしその場で相手にこんな珠玉の罵詈雑言を言えていれば、少しは気分も晴れたのかもしれないが。泣きくたびれて帰っていった。後からkaorucoちゃんからメッセージが来て「お母さん、僕これ治ったかも」と、さっきの傷について言っていたらしい。「何だか子どもまで癒してもらって感謝します」って書いてあって、なんだか私はいろんな意味でがーんとした。申し訳ないくらい私はとても無力な他人で、でもあの時仲間にしてもらって嬉しかったなと思った。

 

 翌日は、乗り物講習会だったのでついでに学校見学。たくさんのお父さんお母さん達が狭い学校で楽しげにたむろする中、Year3のクラスにしゅうやを見つけた。静かに座ってるけど目はてんぱってて完全に挙動不審w。お母さんを見つけるとちょっと出てきて、外へ出る相談もしたみたいだけど「帰るよ」って手を振ったらそのまま留まった。

 

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2人が素直にバスに乗ったのも平然を装いつつ母は小さくタップを踏んだし、教室に残った事でも心はくるりとターンした。

 

そして、帰宅した2人の様子がわたしに送られてきた。

 

ヒカルは英語が分からないのは自分としゅうやだけ。行きたくない。でも7回は行く約束だから、今は文句を言わないって。

 

しゅうやは「学校は優しい人だらけだった」と。

 

その文字がスマホに滲むみたいだった。やだ泣きそう!って私が言うと、私も泣いちゃいそうでした、とkaorucoちゃん。

 

すぐに学校の担当教員であるT.ラフィーザに「聞いて。今日しゅうやが家でなんて言ったと思う?優しい人だらけだったって。みんなみんなが!」って送ったら「 は? なによくわかんない。クレーム?」「違うよ~よく読んで、しゅうやが、みんながみんな、先生も生徒も優しいひとばっかりだったって言ってるの。あの子、日本の学校でいっぱい傷ついてるから」って。そこで返信が止まってしまって20分。やっときたラフィーザからの返事には

「わたし、いま泣いてる」って書いてあった。

それ見て、またスマホが滲んだ。

 

つづく