小事争論 koji-souron

アジア服・南国よろず屋ままかのボス。まだときどきちゃぶ台をひっくり返したりするけどだいぶ穏かになりました。

娘が消えた日

この日は、オーストラリアから友人H君が遊びに来ていたので、お手軽観光に我が家の目の前にあるタラート(市場)へ繰り出そうということになった。美味しいタイのお惣菜をたくさん買って食べよう!

DVD屋、Tシャツ屋、サンダルなんかをひやかしなら進むとますます混雑した一帯に突入。お惣菜ラインへ流れ込んだ。ほどなく彪がちんこが痛い!と言い出し、え~?( ゚д゚ )なんでいま~?と責めてもしゃあない歩けなくなった彪をH君が抱いてくれた。夕暮れが迫り辺りは少し暗くなり始め人はますます増え、そこを子どもを抱いて歩くのは大変で、彼と少しペースがずれたりしていた。そして私の手は荷物でふさがり始めていた。子ども達は小さなイチゴシェイクに夢中で時々はっぱをかけられたりしていた。そんな最中でのことだ。

いつもの八百屋さんでいつもの野菜を買っていると私の周りには一瞬誰もいなくなっていた。ちょっと離れたところから「かあかん!ここにムーピン屋さんがあるよ!」と凛の声がした。「はい、そこにいて」と言いながらお釣りを貰ってムーピン屋さんで凛を見つけ、後ろから程なく友人と彪がやってきた。ムーピン買ってまた歩き出すと、そこで「あれ一人足りない」

何度見ても、百伽がいない。あれ。

大丈夫、きっとすぐ見つかる。ちょっと待ってて!と、串揚げ屋のお兄ちゃんの陣地にりんひょうとH君の3人を置いてもらって、走って百伽を探しに行った。きっと怖がっているだろう。でもまだかなり近くにいるに違いないからすぐに見つかるはず。しかし人が多くて前が見えない。思うように進めない。どうにか1周してみたものの、あれ、おかしなことに見つからない。

串揚屋に戻ると「みつからない?」と3人が不安げにしていた。

「よし、僕も探しに行くから2人はここにいな」とH君が言うと「やだやだ!」と凛と彪が慌てている。そりゃ今離れるのは不安だろう。で、凛と私、彪とH君、二手に分かれて、みんなで大きな声でモカを呼んだ。

大丈夫、百伽はここにしょっちゅう来るからみんな彼女の顔は知っているし、日本人は珍しい。

大丈夫、きっと誰かが泣いているのを見てここに座っていなさいと言ってくれている。

大丈夫、こんな小さなタラートで会えない方が難しい。

大丈夫な理由の方が多いにも関わらず、百伽は出てこない。

仲良しのソムタム屋さんにも、八百屋さんにも、さっき買ったイチゴシェイクにもいない。

耳をすましても、泣いてる子どもの声がどこからも聞こえてこないのが、本当に恐ろしかった。

子ども泥棒が来るから、気をつけろって言われていたのに。

いくらここで知られてる子でも、さっと担いで車に乗せたら誰も気付かないかもしれない。

泣き出す前に口を塞がれたら・・・

日本人だから前から狙われていたってこともあるのか

どうしても足がだんだん早くなる。

私の様子に、凛が反応する。

「どうしよう、大変なことになる。大変なことになるよ」と凛が声を出して泣き出した。

繋いでいる掌にぎゅーっと力が入った。

遠くから聞こえてくるのは「もかあああー!」と叫ぶ彪の声だ。

つまりあちらもまだ百伽を発見できていない。

まだ見つからない。なんで見つからない?

「もかーーーー!もかーーーー!」

3周も回ったところで「どうした?」と店じまいをはじめたおばちゃんが声を掛けてくれた。「おかしいね。警備に行ってみようか。ついておいで」と、歩きながら他のお店の人にも百伽の服装や年齢を伝えてくれていた。みんなうんうんと頷きながら、日本人の子だよねぇ。小さい子だよねぇ。と心配しながら聞いてくれている。

残念ながら、警備室は空っぽ。

交番も空っぽ。

おばちゃんが困って頬に手を当てる。行き交う人に知らない?と声を掛けている。

「もーかー!」凛が叫ぶ。

「もーーーーかーーーー!」彪が遠くで叫んでいる。

どうしよう

その時、肩を叩かれ振り返るとキレイなお姉さんが

「小さい日本人の女の子を捜してる?この子と同じ服着てるでしょ?その子だったらお家に帰りましたよ」

え?

「えーっと、泣いていて誰かが助けて、家に帰ってるわ」

え?

の、やりとりを3回30秒くらいやって、ありがとう・・・と、凛と走り出した。

「おばちゃん、家にいるかも知れないから見て来る!」

いつもは気をつけて渡る四斜線をどう渡ったのか覚えていない。

門番のお兄ちゃんに「もか帰ってる?」と聞くと「えーえ、帰ってますよ。3人で帰ってきた」「3人?」って思いつつ、中庭を抜けるとプールサイドに座って泣いている、百伽がいた!

脱力

私が百伽を抱きながら、あーあーあーあー言ってると、アパートのスタッフや住人達が集まってきて「百伽、ここでずっと座って泣いてたんだけど、どうしたの?」と、いやいやいやいやタラートでいなくなっちゃって。

「とにかく彼女は自分の家が分って、ここで泣いていたんだから安全だったのよ。それで良かったのよ」と、昨日今日子どもを生んだ新米マミーに受け入れよと諭され、うんうんと泣きそうになる。ハイ。ありがとうございます。

いやもう、なんともなんともなんとも言えない。ただ安全な所にいてくれて本当に良かったので、無事に帰ってくれるなら母はタラート100周したって構わないです。

「友達と彪がまだ探してるから行って来る」とスタッフに言い、凛と百伽に部屋に戻るよう伝えてタラートへ戻った。

すると、タラートの入口付近に人垣が出来ていて、覗くと中に我が息子が。

「デックデックプーイン、ハーピー、コンイープン、スアパームアンカン チュアイドゥアイ!」

つたないタイ語で人々に協力を要請していた。

みんな真剣に聞きながら騒然となっている。警備員さんに言おうよって言ってる輪の中に警備員さんがいるカオス。

・・・あの、ありがとうございます。見つかりました!

「ほお~~~~~~~~」と全員が安堵の息を吐いた。

「どこにいたの?」

「家に帰ってました」

「え?どうやって帰ったの!」

「誰かが道を渡らせてくれたみたいです」

「わーーーーっはっはっは、まぁいいや、よかったよかった」

人垣がいっせいに崩れた。

H君と彪にはすぐ帰ってもらって、私はおばちゃんや声を掛けたお店の人たちにも報告に行き

100歳くらい年を取って帰宅。

その日の夕食は買い物も中途半端だったので華やかさに欠けてしまったが、どうせ喉を通らないもの。やったら喉が渇いて水飲んでばっかで、飲むたびに「あ~~~~~」「あ~~~~~」って声が出てしまう。もう他の話題も浮かばないし。

当の百伽さんは、お風呂に入って着替えたらすっかり落ち着いて見えた。でもコロっと椅子から転げ落ちたり、父の膝にうまく乗れず落ちたりと、やはり興奮のせいで三半規管が少しおかしいみたいだった。

「ねえ、どうしてお家にたどり着いたのか、後でそーっと教えて」と言うと、ダメっうっふっふと笑っていた。

百伽が大きくなったってことなんだ。自意識が強くなると、単純に泣き叫んて母を呼んだりしないこともあるんだな。

特にプライドが高くて人見知りの強い彼女は、よく知ってる場所で迷子になった自分を咄嗟に恥ずかしく思ってしまっただろうし、H君にもかっこ悪いとこ見せられないから、すぐに大きなリアクションを取れず固まってしまったのでしょう。更にそれを上回る恐怖。日頃からは子ども泥棒に気をつけて、と教えられているから、それを思い出し迷子だと思われないように感情を押し殺し怯えてもいたでしょう。声を出さずに泣きながら、優しそうなお姉さん達に、家に帰るのを手伝ってもらったのでした。

おりしもその日は子ども達の合格発表だったのです。

英語はもちろん大事だけれど、タイ語もやらないといけないし、転校したほうがいいかなぁなんて思っていた時にたまたまタイミングよく試験の日がやってきて、とんとん拍子に全員合格。しかしさて、本当に転校するかどうしようかな~なんて贅沢なことを考えていた時。

こっちへ越してきた時は今の学校に通うだけでも大冒険だったのに、すっかり環境に慣れ新たに動き出す。その中に驕りや欲はなかったか?

戒められて、奪われるのか?と思うと本当に怖かった・・・

とにかくまずは、生きてくれていさえすればいい、と改めて思える事件でした。

ほんともうまじもうやめて('A`)