いやじゃもん

なにしろ双子はものすごく成長した。 双子は双子の世界の中で意思の疎通がまかなわれてしまうので 概して口が遅いといわれている。こっちにはわからない双子語が ありますからな。3歳くらいまで喋らないなんて良くある事らし い。男の子ならなおさらか。うちの双子もクラスメイトを見れば 明らかに遅い方だけれど、遅いながらもまぁずいぶん喋るよう になった。言葉に関しては俄然彪の方が早い。一度覚えた言葉は 上手になるまで何度も言って練習し活用している。「スッパイ デモ、オイシー」が「うーん、すっぱい！でも美味しいねぇ」に なるまで使いまくる。言葉に音階が付いて歌も歌えるようになった。 凛も彪もこちらの言ってる事はほとんどわかる様になったので 側にいる時の話題にも気を遣わねばならなくなった。特に二人を 比較する様な発言↑はご法度よ。 今は彪が反抗期なんだそうで→「反抗期かしらね」なんて話して いたら「ハンコーキー」と答えていました。なのでお気に障るよう な事を言うとすぐにお坊ちゃまは気分を害される。ややこしいから 要注意!!遅咲きの凛はまだ愛らしい笑顔を振りまいて日々ご機嫌。 彪より凛の方がずっと気難しいかったんだけれどなぁ。 ある日彪が何度も凛に「アッチッテ」と言っている。 はじめはあまり気にしていなかったのだが、よく聞いてみると 「あっち行って！」と言っているのだ。それに対して凛は「ここ？ こっち？」とちょっと離れては確認、ちょっと離れては確認して いる。「アッチッテ！」と言われるまま移動していたらもう部屋の 端まで来てしまった。最後に「ここ？」と小首をかしげて聞いた 時には彪は背を向け完全無視。すっかり自分の遊びに集中している （様に見せている）のだった。その態度から、ついに凛は今まで の一連の行為が遊びでなく悪意であったのだと気付いた。 頭にアンパンマンお菓子箱のフタをかぶりおもちゃを抱えたまま 行き場をなくして立ち尽くす・・・。 これはいけない。 「凛くんおいで」と言ってその場を私が引き取った。 うーん、困ったね。 今のところ言葉も理解も彪の方が早いので、周囲の大人はなんと なくちょっと難解な話は彪にばかりしてしまう。気を付けないと 凛を傷つけるだろうと思ってはいたが、それが彪に変な自信を付 けさせてしまったかも知れない。彼は今反抗期なので当たれる人 が凛だけって事もあるだろうけど、凛を馬鹿にしたような発言や 態度をよく見せるのだ。とーたんは、おっとりしてても周囲と うまくやってる凛が本当は羨ましいんだろう、と言う。 どれもこれも本当のところは彼らに聞かなきゃわかんないが。 「百伽ちゃん良かったね～。素敵なお兄ちゃんが二人もいて。凛 君も彪ちゃんも優しくて強くてかーかんは大好き。三人のかーかん になれて本当に良かったなあ」と私は抱いていた百伽さんに大きな 声で話しかけた。「作戦」と言ってしまうといやらしいが、作戦 でもいいや。でも嘘はちっともついていない。私は私の本当の気持 ちを子供達みんなに聞いて欲しいと思ったのだ。とにかく大きな声 で私は私の子供達を自慢して賛美して褒めちぎりたかった。 凛は私にくっつきながらケラケラ嬉しそうに聞いていたが、彪は 遊びに集中している（ふりをしている）。でも動きが少し大きく なってちょっとテンションが上がったかも。 「凛君、彪ちゃんはまだ具合が悪いんだよ。だから心がカサカサ するんだよ。いつも彪ちゃんは優しいもんね。許してあげなね」 と言うと、凛が手を額に当てて「オネツー？」と言った。 おお！そこまで理解できていたか！と静かに驚いたわたし。 「そうだよ。凛くんもお熱苦しかったもんね」 ウンウンとすっかり心晴れたように彪のそばに戻って行った。 何もなかったかの様に交じり合うふたり。 機嫌も具合も悪けりゃ苦しい。だいたい意地悪した方のが苦しい もんさ、彪さんよ。仲良くしろって叱ったって仕方がない。 自己顕示欲爆発も大きくなった証拠だもんなぁ。 反抗期、面倒臭いけどバンザイだよ。 必ず一方がそうなれば次にはもう一方も同じ道を辿る。 芽がバラバラにでも上へ上へと大きくなる様に、その場その場は こっちが先だのあっちが上だのと思えても、大きく見れば結局は まったく同じ様に発達しているものですよ、お母さん、と 主治医は言った。本当にそうだ。 どっちが先もないなぁ。 昨日から彪さんは「いやじゃ！」と牙を剥くのから「いやじゃも ん」と甘える様に反抗するようになった。 お風呂もいやじゃもん、着替えもいやじゃもん、で、 かー！面倒くさ！ 間もなく凛もこうなり、おませ女子の百伽さんは来年くらいにゃ そうなっちゃうかもね・・・ま、毎年反抗期か～～ 自信ないよ・・・。 更年期障害にはもう少しお待ちいただきたいものです。 アンパンマンお菓子ボックスのフタをかぶる双子。 後ろから見てはダメ！