小事争論 こじ

アジア服・南国よろず屋ままかのボス。まだときどきちゃぶ台をひっくり返したりするけどだいぶ穏かになりました。

おっさん力

帰宅ラッシュまで後ほんの少しと言うやや混みの電車の中で 塾に行こうとしている推定年齢10歳が、慌てて宿題をやっていた。 床に膝を付き、椅子をデスク代わりにして猛烈に答えを書き込んでいる。 2人分のスペースをフルに使ってプリントと文具が広がっていた。 見咎める暇もなく、ガバっと立ち上がった坊主。目的地に着いた。 ぱぱぱっとカバンとプリントをしっかり持ち車内から走り出た。 「お!えんぴつ、えんぴつ!」と私の席のおじさんが叫んだ。 おじさんは、隣のおじさんと、すごく熱心に議論している最中だったのだが あまりにも彼の宿題のやり方が派手なので見るともなく目で追って いたのだろう。気付くのが早かった。 そして私も気付いてしまった。えんぴつの横に切符も忘れている!! おじさんは咄嗟に立ち上がりえんぴつを掴んだ「切符も!!」と 喉まで声が出掛かったが、こう言う時ってすぐ声にならないんだなぁー でもおじさんもちゃんと気付いてえんぴつと切符、ちゃんと両方掴むと 駅員に見えるように体を三分の一ドアから出して「僕!僕!」と叫んだ。 坊主よ気付け!そして急いで戻れ! こういう時ってなんでこうもどかしく時間がゆっくりなんでしょう。 夢で追われている時みたいだ。 「あ、あ、あ、あ、アリガトウゴザイマス」 坊主もすぐに声にならないようだったけれど、ドアが閉まる瞬間に ちゃんとお礼が聞こえた。よかったー、よかったー。 車内の緊張は一気に緩んで、節目がちな人々の顔が少し優しくなる。 「でね、そう言うのって現場を知らないからだって言ってやったんですよ」 おじさんはそんな事意に介さず、席に戻るなりすぐさま議論に戻った。 相手のおじさんも、まったくその事を突っ込むことなく 「そうそう、本質的なのはやはり現場の意見ですよ」 と、何事もなかったかのように受け応え。 恥ずかしくてそうしているのではないようだ。 おじさんは、そんなことよりもっと物凄~く大事な話しをしてるのだ。 そのなんだか・・・そのなんでもない感じ、かっこいい。 電車の中で誰かに声を掛けられるテンションじゃなかなかいられないけど それって気取ってるからかしらね。 自分の世界とその他の世界をひらりひらりとなんてことなく行き交わし、 こう堂々と親和的態度も振舞える、このおっさん力。これも鈍感力か。 身に付けたい。憧れる。